SEO・LLMOに弱い「Studio」|成果重視なら導入は慎重に
「デザインがきれい」「ノーコードで簡単」「テンプレートも充実している」
ノーコードで誰でも簡単にWebサイトが作れる「Studio」が、Web制作者や事業主の間で急速に広まっています。
私自身も、クライアントからStudioサイトへのGoogleタグマネージャー実装について相談を受ける機会も増えてきました。
でも、正直に伝えたい。もし、あなたやあなたのクライアントが「SEOで集客したい」「GA4で正確に計測したい」と考えているなら、Studioの採用には慎重になった方がいい、と。
StudioはSPA(シングルページアプリケーション)構造を採用しており、通常のHTMLサイトとは異なる特性を持っています。一見するとモダンで便利に見える反面、SEOや計測の観点では制約だらけの構造とも言えます。
もちろん、Studioにも検索設定やOGP設定の項目はありますし、最低限のSEO対策は可能です。
しかし、クローラーの仕様やGoogleの仕組みを深く理解していくと、StudioのSEOに向かない点が見えてきます。
- なぜStudioはGoogleにインデックスされづらいのか
- なぜGA4やタグマネージャーの設定が難しいのか
- 代替手段や注意点はあるのか
Studioでサイトを構築する前に知っておくべき上記の疑問について、Web制作者の視点で分かりやすく整理していきます。
本記事では、StudioをSPA代表として取り上げていますが、WixやフルスクラッチのJavaScriptフレームワークで作成するSPAサイトにも当然ながら当てはまる話です。
Studioとは何か、なぜ選ばれるのか
Studioは、ノーコードでデザイン性の高いWebサイトが作れるクラウド型Web制作ツールです。デザインツールのような直感的なUI、豊富なテンプレート、ホスティングまで含んだ一貫したサービス設計が支持され、特に個人事業主やスタートアップ、スモールチームでの導入が進んでいます。
実際、コーポレートサイトや採用サイトなど、「早く・安く・きれいに作りたい」というニーズにマッチするため、制作者側からの提案ツールとしても重宝されているのが現状です。
とくにStudioの魅力は、Webサイト全体をSPA(シングルページアプリケーション)として構築できる点にあります。このおかげで、ページ遷移時のスピード感やスムーズな操作体験が実現できるのです。
しかし冒頭でも触れた通り、こうした技術的特性が「検索結果に出ない」「タグがうまく動かない」といったマーケティング上のトラブルを引き起こすこともあるのです。
次の章では、Studioの構造が抱えるSEO的な弱点について詳しく掘り下げていきます。
SPA(シングルページアプリケーション)とは、まるでアプリのように使えるウェブサイトのことです。
従来のウェブサイトでは、新しいページを見るたびにウェブサイト全体を読み込み直す必要がありました。しかしSPAでは、最初にウェブサイト全体の基本的な部分を一度だけ読み込み、その後は必要な情報だけをまるでページが切り替わるように表示します。
例えるなら、従来のウェブサイトが「ページをめくる本」だとすると、SPAは「ボタンを押すと画面の内容が瞬時に変わる電子書籍」のようなものとイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。
StudioがSEOに不利とされる3つの理由
Studioの構造的な特徴は、見た目や操作性では大きな利点となりますが、SEOという観点では注意すべき点がいくつもあります。ここでは特に重要な3つの課題について整理します。
1. JavaScriptレンダリング依存とクロールバジェットの浪費
StudioはSPA構造を採用しており、コンテンツの表示にJavaScriptの実行が不可欠です。つまり、検索エンジンのクローラーの立場になってみると「すぐに中身が読めない、手間のかかるサイト」ということになります。
GoogleはJavaScriptのレンダリングに対応しているとはいえ、サーバーの応答時間やページの描画に時間がかかると、クロールバジェット(クロールに使えるリソース)を浪費してしまいます。
クロールバジェットとは、簡単に言うと、Googleのロボット(Googlebot)があなたのウェブサイトを見に来て、内容を把握するために使える「持ち時間」や「体力」のようなものです。
Web上には多くのサイトやページが存在するため、Googleといえども全てのページを隅々まで見て回ることはできません。そこで、GoogleはそれぞれのWebサイトに対して、どれくらいの時間やリソースを割いてクロール(ウェブサイトの情報を収集すること)するかを決めています。これがクロールバジェットです。
1ページあたりの巡回にかかる時間や容量が増えれば、一度のクローリングで得られる情報量が少なくなります。「ページスピードを早くした方がいい」というのは、クロールバジェットの観点からも有効なんですね。
クロールバジェットを無駄に消費することで、以下のような致命的な問題が起こり得るのです。
- 重要なページがインデックスされない
- ページ更新が検索結果に反映されるまでに時間がかかる
- Bingなどの検索エンジンや生成AIには全く表示されないケースもある
つまり、検索に出したい情報が「出ない」「遅い」「漏れる」といった事態になりやすいということです。
特に現在ではGoogle検索だけでなく、ChatGPTやGeminiなどの生成AIツールも、検索エンジンのように使われてきています。そうしたAI(LLM)のクローラーにも、ページを正しく読み取ってもらう必要があるのです。SEOだけでなく、LLMO(大規模言語モデル最適化)のことも考慮しなければいけません。
そんな時、SPAサイトがAIのクローラーの足を引っ張るのは目に見えています。
2. メタタグやOGPの反映が不安定になりやすい
StudioにはSEO設定画面があり、タイトルやdescription、OGPなどを入力することができます。ただし、これらがJavaScriptで生成・操作されるため、クローラーが正しく認識できないリスクがあります。
- Googleの検索結果に意図しないタイトルが表示されない
- FacebookやX(旧Twitter)でのリンクプレビューが崩れる
こうした現象は、Studioの設定ミスではなく、構造上の仕様として起こりやすいことに注意が必要です。
3. トラッキングタグがうまく動かない
GoogleタグマネージャーやGA4を導入した際、「イベントが正しく取得できない」「データに漏れがある」というトラブルもよく発生します。
SPA構造によりページ遷移がJavaScriptで行われ、URLは変わってもHTMLは再読み込みされないという特性によるものです。通常のWebサイトで期待される「ページビュー」「コンバージョン」「クリックイベント」の計測が、思った通りに取れない、あるいは複雑なカスタマイズが必要になるのです。
トラッキングの不備は、まさに私が現実的な課題として直面しているだけに、「本当に勘弁してほしい」と思っています。
StudioでGoogleタグマネージャーを使う方法について、公式のブログにも説明がありますが、初心者にはかなりハードルの高い内容となっています。
参考:StudioとGTM連携!ページ閲覧をトリガーにタグを配信する方法
これで「GA4のイベントが取れません」「PVがダブります」という問い合わせが本当に多いのです。
ですので、私のポジショントークにもなっていますが、GTMを使ってGA4のイベントを取りたいなら絶対に選んで欲しくない選択肢です。
SSRやプリレンダリングという対策はあるが最適解ではない
SPAのSEO課題に対して、技術的に有効な対策として知られているのが、SSR(サーバーサイドレンダリング)とプリレンダリングです。
これは、ページの内容をあらかじめ「完成したHTML」として準備しておき、検索エンジンにスムーズに情報を渡す仕組みのこと。この実装方法なら、JavaScript(サイトの動きを作る技術)を使って表示するタイプのサイトでも、「検索エンジンにちゃんと読まれる状態を作る」ことが可能になります。
同じSPA型ツールでも、WixはこのSSRを標準搭載していますが、Studioは現時点(2025年4月)では明確な対応がありません。
つまり、Studioでは「JavaScriptをどう扱うか」「検索エンジンにどこまで明示できるか」といったSEOの根本に関わる設計を、制作者側で柔軟に操作できないのです。
もちろん、Studioにも次のような基本的SEO機能は備わっています。
- ページごとのタイトル・ディスクリプション設定
- HTMLタグの変更(H1〜H6、画像のalt属性などの基本要素)
- XMLサイトマップや301リダイレクトの自動生成
- Googleサーチコンソール・GA4・GTMとの連携機能
- AIによるSEOライティング支援機能
こうした機能で「最低限のSEO設定」は可能ですが、SPAの特徴でもある「ページを切り替えるたびに裏側で情報が動的に書き換わる」という構造では、検索エンジンがうまく情報を拾えないことがあり、対策にはより深い仕組みの理解と調整が必要になります。
では、仮にStudioに今後SSRやプリレンダリング機能が追加されたとしましょう。
この場合、「機能がある=問題が解決する」と考えるのは早計です。
- サイトのどのタイミングで表示内容を生成するのか
- ページごとに異なる情報(タイトル、ディスクリプションなど)をどうやって確実に出し分けるか
- サイト内のリンク構造がきちんとGoogleに伝わる形になっているか
SSRであれば、上記のような細かな設計と検証作業が必要になります。
これは「自動で何とかしてくれるもの」ではなく、技術的なノウハウと工数が前提となる施策なのです。
特にノーコード制作者や、エンジニアリングに詳しくないディレクターがStudioを使う場合、こうした設計の自由度がない以上、「できるように見えても、結局使いこなせない」状態になる可能性が高いといえます。
言い換えれば、理論上はSPAでもSEOで戦えるけれど、実務では「仕組みを理解して使いこなせる人がいないと機能しない」。
これが、SPAをSEO用途で使う際に常につきまとう難しさです。小規模組織なら、なおさら上記のような対応は難しいはずです。
だからこそ、「Studioが将来対応するだろうから大丈夫」という楽観的観測ではなく、「現時点で再現性を持って成果が出せる仕組みか?」という視点で選ぶことが重要になります。
「データが人質になる」という側面もある
SPAの特性とは関係ありませんが、Studioのようなプラットフォーム型CMSを使う上で見逃してはならないのが、データの所有権に関するリスクです。
Studioは、ユーザーがコンテンツを作成しやすいように多くの機能を提供していますが、構造的には「サービス提供側がデータベースを所有している」仕組みになっています。つまり、あなたが一生懸命に作ったコンテンツや設定データは、すべてStudioのサーバー上にあるということです。
この状況は、極端に言えば「データが人質に取られている」とも表現できるでしょう。
たとえば、サービスが値上げされた場合や、将来的にStudioが事業を終了した場合、自分のコンテンツを別のプラットフォームに移行できるとは限らないのです。実際に、Studioは2023年5月、2024年12月に料金改定がありました。今後も価格や仕様が変更される可能性は十分にあります。
もちろん、エクスポート機能が提供される可能性もありますが、「データが簡単に取り出せない」「取り出せても別のCMSにスムーズに移せない」という事態は十分にあり得ます。私自身、エクスポートできないCMSで作った数百ページのコンテンツを手作業でWordPressに移し替える案件に何度かニアミスしたことがあります(幸いにも担当にはならなかった)が、実際対応することになったら大変ですよ。
自分のサーバーに自分のデータを置いているWordPressでは、こうした事態は起こりにくいと言えます。当然のようにエクスポートもできるので、必要であれば別のサーバーに引っ越すこともできるのです。「Webサイトを資産にする」なら、データを自分で管理できるWordPressの方が圧倒的に有利なのです。
Studioの手軽さは魅力ですが、コンテンツが増えるほど、その「出口のなさ」が重くのしかかってくるという点は、必ず押さえておくべき視点です。
現状はWordPressが手堅い選択肢
ここまで、Studioの構造的な課題やリスクについて触れてきましたが、では具体的にどのCMSを選べばいいのか。私の結論はシンプルです。
普通にWordPressを使えばいいじゃないですか。理由は以下の通りです。
- 世界で最も使われているCMSだから、情報がとにかく豊富
- ブロックエディタでノーコード制作できる
- セキュリティやSEO対策もプラグインで拡張可能
それぞれ見ていきましょう。
1. 世界で最も使われているCMSだから、情報がとにかく豊富
WordPressは世界中で使われているオープンソースCMSです。現在でも世界のWebサイトの4割がWordPressで作られているのです。
だからこそ、不明点があっても「ググれば答えが見つかる」というのが最大の強みです。
- 初心者向けの操作方法
- 特定のプラグインの使い方
- トラブル時の対処法
こうした情報が日本語で無数に存在します。困ったときにすぐ調べて対応できる。――これは、実務で運用していく上で非常に大きな安心材料です。
参考(WordPressのシェアについて):W3Techs
Studioは「スタジオ」というサービス名自体が一般ワードすぎて、そもそも検索で情報を探すこと自体が難しいという別の問題(関係のない情報まで拾ってしまう)もあります…。
2. ブロックエディタでノーコード制作できる
「WordPressって、昔ながらの難しいCMSでしょ?」と思われるかもしれません。それは、旧クラシックエディタのことを指しているのかもしれません。
結構前(2019年)から、Gutenberg(グーテンベルク)と呼ばれるブロックエディタの導入により、直感的な操作が可能になっています。
文章や画像、ボタン、カラムなどをブロックとして追加・配置できるので、STUDIOのようなノーコードツールと遜色のない操作性になっています。慣れの問題です。
私が愛用しているWordPressテーマ「SWELL」も、ブロックエディタに完全対応していますので、「ほぼノーコード」でサイトを制作できます。
3. セキュリティやSEO対策もプラグインで拡張可能
WordPressのもう一つの魅力は、目的に応じて機能をプラグインで拡張できることです。
- セキュリティ対策(ログイン制限やファイアウォール)
- SEO対策(タイトルやディスクリプションの最適化など)
- GA4やGoogleタグマネージャーの導入
こうした機能も、プラグインを使えば簡単に実装できます。「最初から全部できる」という必要はないのです。まずは最低限の機能から始め、サイトの成長とともに必要な機能を追加していくという運用スタイルが可能です。
まとめ:見た目ではなく「運用と成果」で選ぶという判断基準を
Studioはデザインが美しく直感的に扱えるノーコードツールです。Web制作のスピードとビジュアル品質を両立させたいプロジェクトでは、確かに魅力的な選択肢です。
けれど、SEOやデータ解析、広告運用など、「成果につながる運用」を前提とするなら、いくつもの注意点があるのはこれまで述べてきたとおりです。
- SPA構造によってクロールやインデックスが遅れやすい
- GA4やGTMなどの解析ツールとの連携が不安定になりやすい
- SSRや構造化データなど、高度なSEO実装ができない
- データ所有権がプラットフォーム側にあり、移行リスクがある
これらの課題を把握せずに Studioを導入してしまうと、「デザインは良いけど集客できない」「分析できない」「移行できない」という本末転倒な状態になってしまいます。
本来、Webサイトはマーケティングのために作るものです。ツールに振り回されるのではなく、目的に合ったツールを選ぶこと。それが、Webで成果を上げるために必要な力だと、私は考えています。
記事へのご質問・ご指摘