Webマーケティングとはユーザーをゴールまで導く「おもてなし」である
- 「来月からWebマーケティングの担当も兼任してほしい」
- 「これからはWebの時代だから、一通り学んでおいてくれ」
上司から突然そう言われ、慌ててネットで検索したり、本を手に取ったりした方も多いのではないでしょうか。しかし、そこで待ち受けているのは、耳慣れないカタカナ用語の洪水です。
- 「SEOが大事だ」
- 「これからはSNSの運用が欠かせない」
- 「GA4(Googleアナリティクス)の設定を急がないと……」
覚えるべきツールや手法があまりに多く、結局「今、自分は何をすればいいのか?」がわからなくなってしまう。
なぜ、これほどまでにWebマーケティングはわかりにくいのか。
それは、多くの情報が「手法」ばかりに偏り、肝心の「目的」や「全体像」が置き去りにされているからではないでしょうか。もちろんツールを使いこなすことは大切ですが、それはあくまで手段にすぎません。
私はこれまで、10年ほどWebマーケティング関連の仕事に携わってきましたが、その経験から確信していることがあります。
Webマーケティングは、実はもっとシンプルで「人間臭い」ものだということです。
この記事は、「Webマーケティングって何?」と迷子になっているあなたに、「Webマーケティングのシンプルな地図」をお渡しすることを目的としています。記事を読み終える頃には、複雑に見えていた要素同士がつながり、自信を持って次の一歩を踏み出せるようになっているはずです。
そもそも「マーケティング」とは何か?
「Webマーケティング」を理解するための近道は、まず「マーケティング」という言葉の正体を明確にしておきましょう。
専門書を開くと「市場調査」や「価値の提供」といった難しい定義が並んでいますが、私は以下のように定義しています。
マーケティングとは、「ユーザーをゴールまで迷わず導くこと」
これに尽きると考えています。
「ゴールまで導く」と言われてもピンとこないかもしれませんので、「ある街でカレー屋さんを始めた店主」を例に見て見ましょう。
どれほど美味しいカレーを作ったとしても、ただ店を開けて待っているだけではお客様は来てくれません。「カレーを食べてもらう」というゴールまで、お客様にスムーズに歩いてもらうための「道」を整備する必要があります。
この「道作り」は、大きく次の3つのステップに分かれます。
1.集客(見つけてもらう)

お店の存在を知らない人に、「ここに美味しいカレー屋がありますよ」と看板やチラシで案内する。
2.接客(好きになってもらう)

お店に来てくれた人に、「この店なら食べてみたい」と感じてもらい、注文まで迷わず案内する。
3.追客(思い出してもらう)

一度食べてくれた人に、「またあのカレーを食べに行こう」と思い出してもらうための心配りをする。
この3つのステップを整え、お客様が自然とレジに向かいたくなる「動線」を作ること。これがマーケティングの本質です。
よく混同されがちなのが「セールス(販売)」との違いです。
- セールス:お客さんに直接「このカレーは美味しいですよ!トッピングもいかがですか?」と背中を押すこと。
- マーケティング: 店に入り注文するまでに「今日はここのカレーを食べよう!」とお客さんの気持ちを自然に高めておくこと。
優れたマーケティング(道作り)が行われていれば、強引な売り込みがなくても、商品は自然と売れていきます。マーケティングはセールスをサポートする存在でもあるのです。
「Webマーケティング」とは、このお客さんをゴール(購入や契約)まで導くための「道」を、インターネットの中に作っていく作業だといえます。
Webマーケティングとは「Webを使ったおもてなし」である
Webマーケティングを難しく考えすぎる必要はありません。しかし、リアルの商売と一点だけ決定的に違う、そして難しいポイントがあります。
それは、「お客様の反応が直接見えない」ということです。
Webサイトは「無人の店舗」である
あなたの会社のWebサイトやSNSは、24時間365日休まずに働いてくれる「店舗」のようなものです。リアルの店舗と決定的に違うのは、「店員がその場にいない」という部分です。
実店舗なら、お客様が迷っていたら「何かお探しですか?」と声をかけられますし、足元に段差があれば「お気をつけください」と手を貸すことができます。
しかし、店員のいないWebサイトでは、お客様が一度でも「使いにくい」「知りたいことが書かれていない」と感じたら、一言の文句も言わずにスッとお店を出て(ページを閉じて)しまいます。そして、二度と戻ってきてくれないかもしれません。
3つのステップでおもてなしを考える
Webでのおもてなしを前の方で出てきた「集客」「接客」「追客」の3つのステップに当てはめてみましょう。
1.集客(見つけてもらう)

- SEO(検索エンジン最適化)
- SNS運用
- Web広告
2.接客(好きになってもらう)

- コンテンツ制作
- UI/UX改善
- LPO(ランディングページ最適化)
3.追客(思い出してもらう)

- メールマガジン
- 公式LINE
- リマーケティング広告
あなたが今、手をつけようとしている仕事は、上記の中のどこに分類されるものか考えてみてください。
解析ツール(GA4/GTM)は「お客様を観察する目」
ここで、多くの人が苦手意識を持つ「アクセス解析」についても触れておきます。
Googleアナリティクス(GA4)やGoogleタグマネージャー(GTM)といったツールは、お客様が「どこで迷い、どこで不満を感じて帰ってしまったのか」という、画面越しでは見えない信号(サイレント・クレーム)を可視化するための装置です。

前の方で「お客さんの反応が直接見えないのがWebマーケティングの難しいところ」だと書きましたが、この「お客さんの反応」を見えるようにするのが解析ツールの役割です。
アクセス解析のデータからは、「ユーザーが見たページ」「クリックやスクロールなどのページ内の行動」など、様々なことがわかります。
- 「このボタンで迷っている人が多いから、説明文を足そう(減らそう)」
- 「このページで帰る人が多いから、情報の順番を入れ替えよう」
- 「フォームの入力で困っている人が多そう。項目を減らそう」
こうしたデータに基づいた改善の一つひとつが、Webにおける「おもてなし」なのです。
全体像の整理:3つのフェーズで捉える
Webマーケティングを学び始めると、「SEO」「広告」「LPO」「リマケ」……と、呪文のような専門用語が次々と現れます。これらをバラバラに覚えようとするから、混乱してしまうのです。
どんなに複雑に見える施策も、先ほどお話しした「購入までの道作り(おもてなし)」のどこを担当しているかによって、大きく3つのフェーズに分けることができます。
今の自分の仕事が、この地図のどこにあるのかを確認してみましょう。

① 集客フェーズ(見つけてもらう)
まずは、あなたの「お店」の存在を知ってもらう段階です。お店の前の通りに看板を出したり、チラシを配ったりする作業に当たります。
- SEO(検索エンジン最適化): 悩みを検索している人に、回答となる記事を見つけてもらう。
- SNS運用: タイムライン上で交流し、親しみを持ってもらう。
- Web広告: ターゲットとなる人に、積極的に「ここに良いお店がありますよ」と知らせる。
② 接客フェーズ(好きになってもらう・買ってもらう)
お店に入ってくれたお客様に、安心して買い物を楽しんでもらう段階です。Webサイトの中身を整える作業です。
- コンテンツ制作: 役立つ情報や納得感のある説明で、信頼を築く。
- UI/UX改善: 迷わず操作でき、快適にページを読めるように整える。
- LPO(ランディングページ最適化): 注文ボタンまでの導線をスムーズにし、最後の不安を取り除く。
Webマーケティングの最終的なゴールは、多くの場合「商品の購入」です。しかし、世の中にはWebサイト上のボタン一つで、すぐに売買が完結しないものもたくさんあります。
例えば、注文住宅やシステム開発、あるいは専門家へのコンサルティング依頼などがそうです。これらは検討期間が長く、購入前に「まずは詳しく話を聞きたい」というプロセスが欠かせません。
そこで重要になるのが、「リード獲得(リードジェネレーション)」という考え方です。「リード」とは、将来のお客様になる可能性を持った「見込み客」のこと。Webサイトを通じて、まずは資料請求やお問い合わせ、メルマガ登録などをしていただき、連絡先(お名前やメールアドレス)を教えていただくことを指します。
カレー屋さんの例えで言うなら、「今は食べないけれど、いつか出前を頼みたいから、パンフレットをもらっておくよ」とお客様が声をかけてくれるような状態です。
「今すぐ買う人」だけでなく、「いつか買いたい人」とも細く長く繋がっておくこと。これもまた、Webマーケティングという広い地図における大切なおもてなしの一つなのです。
③ 再来訪フェーズ(思い出してもらう)
一度購入してくれた、あるいは興味を持ってくれたお客様と「つながり」を持ち続ける段階です。
- メールマガジン・公式LINE: 新しい情報や役立つ知識を届け、再訪のきっかけを作る。
- リマーケティング広告: 一度店を離れた人に、「あのお店、また見てみようかな」と思い出してもらう。
こうして見てみると、Webデザインもコーディングも広告も、すべて同じ流れの中にありますよね。「デザイナー」「コーダー」「マーケター」と職種名は分かれていますが、みんな同じ「マーケティング」という一連の流れの中にいるのです。
「今、自分はどこを強化しているのか?」を意識する
よくある失敗は、①の「集客」ばかりに力を入れて、②の「接客(サイトの中身)」が疎かになっているケースです。
これでは、「必死にチラシを配ってお客さんを呼んでいるのに、店に清潔感がなかったり、メニューがわかりづらかったりして、何も買わずに帰ってしまう」ようなもの。非常にもったいないですよね。
Webマーケティングの担当者として大切なのは、この3つのバランスを見て「どの段階に課題があるのか?」を見極めることなのです。繰り返しになりますが、そのために行うのがアクセス解析です。
Webマーケティングをどうやって学べばいいのか
これまで企業の教育担当として、またUdemy講師として、のべ5,000人以上の方々にWebマーケティングや解析の手法を伝えてきました。その中で見えてきた、「成長する人がやっている3つのコツ」をお伝えします。
ツールの「奴隷」にならない
GA4やGTM、AIといったツールは、使いこなせれば非常に強力です。しかし、ツールの設定方法を覚えること自体が目的になってはいけません。
大切なのは、「何を知るために、そのツールを使うのか?」という目的意識です。
「クリック数が100回あった」という事実も大切ですが、そこからさらに「なぜ100回もクリックされたのか? どんな悩みを抱えた人が押したのか?」と発展させて考える癖をつけてください。ツールはあくまで、私たちの「おもてなし」を支える道具にすぎません。
データの裏側にある「ユーザー心理」を想像する
Webマーケティングのデータは、一見すると無機質な数字の羅列に見えます。しかし、その数字の一つひとつは、実在する人間が動いた「心の跡」です。
- 検索ボタンを押したとき、その人はどんな不安を抱えていたか?
- ページを途中で閉じたとき、何にガッカリしたのか?
画面の向こう側にいるお客様の表情を想像する。この「想像力」こそが、AIには代替できないマーケター最大の武器になります。
Web解析のデータの中にはBotなどの人間ではない存在の痕跡が見える場合もありますが、人間特有の行動を知れば、こうしたデータも見分けられるようになるのです。
「10年変わらないこと」を先に掴む
Webの世界は変化が激しく、1年前に使えたテクニックが今日は通用しない、ということも珍しくありません。しかし、「価値を提供して、その対価を得る」という商売の本質は、10年経っても、100年経っても変わりません。
最新の流行(手法)を追いかけるのも楽しいですが、まずは今回お話ししたような「全体像」や「人間心理」といった、時代に左右されない土台をしっかり固めましょう。土台さえあれば、新しい技術が登場しても、それを「おもてなし」のどの部分で使えばいいかすぐに判断できるようになります。
「商売の本質は100年経っても変わらない」と書きましたが、江戸時代にも様々なマーケティング手法があったようです。
以前の職場に近かったので度々訪れていたのですが、東京の汐留に「アドミュージアム東京」という広告に特化した美術館があるのをご存知でしょうか。常設展では、江戸時代に盛んに行われていた広告手法(看板やチラシ)の実物を見ることができます。
当時のマーケターたちも、様々な工夫を凝らして商売をしていました。現在は、それらの手法がWebに置き換わっただけなのだと感じることができるはずです。
近くにお住まいの方は足を運んでみてください。
参考:アドミュージアム東京
まずは「やるな」から始めよう
ここまで読んで、「なるほど、全体像は分かった。でも結局、今日から何をすればいいのか?」と感じている方もいるかもしれません。
ですが、最初は「何をするべきか」よりも、多くの初心者が無意識にやってしまう「失敗ルート」に入らないことの方が、よほど重要です。
そこで最後に、Webマーケティング担当になったばかりの方が、「やらないでほしいこと」を整理しておきます。
① いきなり施策から入らない
SEO、広告、SNS、GA4…。どれも必要な手段ですが、「何のためにやるのか」が決まっていない状態で触ると、ほぼ確実に迷子になります。
- 何をゴールにしているのか?
- 購入なのか、問い合わせなのか、資料請求なのか?
ゴールが決まっていない施策は、ただの作業です。
② 集客だけを頑張らない
アクセス数やフォロワー数は分かりやすい指標ですが、接客(サイトの中身)が整っていない集客は、穴の空いたバケツに水を注ぐ行為です。
- 問い合わせフォームなどのゴール地点は存在するか?
- 次に何をすればいいか、迷わず分かるか?
- ページは分かりやすいか?
集客を強化する前に、「来た人を迎える準備」ができているかを必ず確認してください。
③ ツールの設定を目的にしない
GA4を入れること、GTMを設定すること、それ自体に価値はありません。大切なのは「このツールで、何を知りたいのか?」ということです。
- どのページで迷っているのか?
- どこで不安になって離脱しているのか?
まずは、こうした「知りたいこと」を整理することから始めましょう。課題設定のないデータは、ただの数字の羅列です。
④ 完璧に理解してから動こうとしない
Webマーケティングは範囲が広く、最初から全てを理解することは不可能です。
- 7割くらい分かった気がする
- なんとなく全体像が掴めた
その段階で十分です。小さく仮説を立て、小さく直す。この繰り返ししか成長ルートはありません。
まとめ:今日から始めるWebマーケティングの最初のステップ
前のセクションで書いた「やるな」を押さえた上で、今日できるWebマーケティングの最初の一歩はとてもシンプルです。
Webサイト上で「購入して欲しいのか」「問い合わせや資料請求をしてもらいたいのか」など、ユーザーに最終的に取ってもらいたい行動を書いてみましょう。
検索 → 記事 → 納得 → 行動、くらいの粒度でOKです。
集客なのか、接客なのか、追客なのか、またはデータを見る手段なのか。
これができれば、SEOも広告もSNSもGA4も、「やる理由」と「見るべきポイント」が自然と決まってきます。新しいツールの導入を検討するときも怖くありません。
Webマーケティングは魔法のテクニックではなく、画面の向こう側にいる一人の人を、迷わせず、安心させ、前に進んでもらうための設計です。だからこそ、焦らなくて大丈夫です。
もし迷ったら、「これは集客・接客・追客のどこを良くする作業だろう?」と自分に問いかけることから始めてみましょう。



記事へのご質問・ご指摘